電源物語

Vol.11: 梅雨時の電源物語

関東甲信地方は、5月27日に梅雨入りしたとみられると気象庁が発表されました。5月中の梅雨入りは、観測を始めてから1963年の5月6日に次いで2番目に早く、平年より12日早く、昨年とは17日も早いそうです。

そのような時節を反映しての「梅雨時の電源物語」です。

いやな湿度の高い季節がやってきましたが、梅雨入り直前の25日未明に悲しい事故が、起こってしまいましたが、この悲劇に関連して、11回目の電源物語をお届けします。

その悲劇とは、新聞やTVニュース等で、御存じだと思いますが、以下の通りです。

『5月25日未明に愛知県名古屋市瑞穂区の家族7人が死傷した火事で、束ねた電源コードが出火原因となった可能性があることがわかった。25日、名古屋市瑞穂区の火災では、野田 修さん(54)と長男・京伯(きょうはく)さん(17)、長女・修子さん(11)、次女・亮子さん(9)、父・功さん(79)が亡くなった。また、修さんの妻・千明さん(43)と、三女の彰子さん(5)が意識不明の重体となっている。火元となった部屋には、パソコン3台が置かれ、いわゆる「たこ足配線」の状態になっていたという。パソコン台の下からは、焼け焦げたコードなどがからまって見つかり、その下の床には直径20cmほどの焦げ跡があったことから県警は束ねたコードが過熱し、発火したとみている。

NITE 製品安全センターの長田 敏参事官は「電源コードは電気が流れますので、熱が出るんです。伸ばしている状態であれば、熱はたまることはありません、放熱しますから。しかし、ぐるぐる巻きの状態では、熱がたまっていく『蓄熱』という状態が起きます。

その場合、190度を超えるとビニール被膜が溶けて、スパーク(火花)が出 る」と語った。コードを巻いた場合だけでなく、コードが複雑に折り重なった状態でも、同じく火花が出る可能性があるという。長田参事官は「(電源コードが)新しいかどうかが問題です」と語った。』

読売新聞5月26日朝刊

読売新聞5月26日朝刊

この事故の原因は、直接的には、梅雨の時期との関連はありませんが、記事にあるようにたこ足配線や長いケーブルを束ねる、コンセントと電源プラグの接触不良が、考えられますので、テーマとして取り上げてみたいと思います。

たこ足配線」ということは、接続できる定格容量に対してそれ以上の電気製品を接続していたり、その配線部分を束ねた状態にしていたりすることを言います。例えば10A(1000W)のテーブルタップに15A(1500W) の電気製品を接続している場合ですが、皆さんも日常的に気にせずにやっているかもしれません。また、延長コードが、長過ぎるからと言って、丸く束ねることも知らず知らずのうちにやっていることがあると思います。

さらにコンセントや電源プラグの接続部分が、燃えることは、「トラッキング」と言います。特にトラッキングによる事故・火災は、これからの湿度の高い時期に起こり易くなりますので、充分な注意が重要です。

基本的には、たこ足配線については接続できる定格電気容量を守る、必要な機材以外は接続しないことによって、防ぐことが出来ます。さらに弊社の「GPC-TQ」のような接続されている機材の使用電流が、判るような電源ディストリビュータを使用すると完璧です。

Volt Ampere GPC-TQ

Volt Ampere GPC-TQ

中央部電流形のオレンジ色のLEDが、点灯すると定格オーバーの表示になります。また、左側のパワーSWが、サーキットブレーカになっていますから、接続されている機材の過負荷に対しては、分電盤の小ブレーカと同じように落ちて、電流を遮断しますので、安全に使用することが可能です。負荷となる機材を調整すれば、再び使用できます。

さて、自社製品の宣伝は、これ位にして本題の梅雨時の電源物語です。

実は、トラッキング事故・火災には、湿気が大きく関わっています。資料を捜していましたら、愛読誌?のオーム社発行の「Shin DENKI 新電気」の2007年3月号に特集が組まれていました。

「Shin DENKI 新電気」2007年3月号特集記事

では、トラッキング現象のメカニズムはどうなっているのでしょうか?

トラッキング現象のメカニズム

ここは、誌面の図をそのまま使います。

長い間コンセントに電源プラグを差し込んだままにするとプラグ周辺に埃が溜ります。溜った埃に湿気等の水滴が付着すると水滴によって電路が形成されて電源プラグのブレード(金属部)の両極間に微小な電流が流れます。電流が流れることによって、水滴にジュール熱が、発生して、水滴は蒸発します。再び、水滴の付着によって電流が流れてジュール熱発生に伴って、水滴は蒸発します

このような現象が幾度となく繰り返されることによって、埃の堆積が多くなることに起因して次第に流れる電流が大きくなります。電流値が大きくなると水滴のジュール熱も上昇するので、水滴への通電から蒸発による電流遮断に至るまでの時間が瞬時となってしまいます。

そのため、電流遮断箇所でアーク放電が、発生します。アーク放電が、その箇所で頻繁に起こることで、ブレード表面に炭化導電路(トラック)が形成されることになります。

炭化導電路形成後、再び、埃に水滴が付着してジュール熱によって蒸発して電流が流れることが、繰り返されて行くこと(トラッキング現象)によって、発火が、引き起こされます。さらにプラグが塩化ビニールの場合では、アーク放電によって発火し、温度が上昇することで耐熱温度を遥かに超えた温度がプラグのブレード部に伝わることになります。

アーク放電が、ブレード表面で頻繁に発生すると焼損した状態(トラック状態)になり、この時点でプラグの絶縁性は、完全に崩壊されています。

ホスピタルグレードの電源プラグでは、対策されている訳ですが、コンセント側のカバーは、まだまだプラスチック製がほとんどだと思われますので、アルミ製など、難燃性の高いものに交換)することも一つの方法でしょう。

アーク放電

この図も誌面からそのまま転載しています。

プラグの電極間に流れる電流波形とプラグ表面

この図も同様です。判りにくいのですが、流れる電流がピーク値で1.5Aに達するとブレード表面にアーク放電が頻繁に発生して炭化導電路と思われる傷跡が見えます。

更に2Aを超えてからプラグから白煙が激しく立ち昇り3Aを超えると白煙とともに火花が起きて発火に至るという解説図です。

プラグの電極間に流れる電流波形とプラグ表面

わずかな電流が、瞬時にしか流れていないにもかかわらず、発火に至るのが、トラッキング現象です。トラッキングを防止する器具や機器も多種多様に市販されていますが、いずれもトラッキング現象を起き難くする物で、起こさない器具、機器ではありません。ということは、起きる可能性がある以上、トラックキング状態になる前に防ぐことを日頃から行うことが大事です。

事故例等の報告や対策について

nite文書より

http://www.nite.go.jp/

独立行政法人 「製品評価技術基盤機構」 nite (National Institute of Technology and Evaluation)という機関に事故例等の報告や対策について掲載されていますので、参考にしてみて下さい。

大事なことは、コンセントや電源タップ等の周辺に燃えやすい物は置かない

機材周辺は、埃が発生しやすい環境を出来るだけ排除すること。

機材の内部に溜った埃は、定期的にブロア等で、取り除く

プラグ部とコンセント部は、定期的に抜き差しして、どういう状態かを確認する。

その際、酸化、炭化しないように接点復活材や潤滑材で磨く、拭く。(付け過ぎや傷を付けないようにしましょう。)

というようなことを日々、行うだけで、事故は、確実に防げます。

特にこのコラムの読者の方々は、一般の人よりも電気の流れる機材を多く使われているわけですから、より一層の注意が必要です。

冒頭に紹介した悲劇が繰り返されないように、常日頃からメンテナンスに留意して音楽制作、音楽・映像鑑賞に勤しんで下さい。

この事故で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。

2011年6月1日

*用語解説

アーク放電:気体中の放電現象。ある電圧が、限界の電圧に達すると高速度で衝突し、加熱して熱電子を放出し、電流が急増して発火に至ることもある。

ジュール熱:抵抗のある導体に電流が流れると熱が発生する。この熱量は、流れる電流の2乗と導体の抵抗及び電流の流れた時間の積に比例するというジュールの法則によって発生する熱。

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