電源物語

Vol.9: GPC-TQ開発ストーリー PT1

Vol.8から、一か月ほど間隔が空いてしまいました。

今回は、GPC-TQに至る開発の一端をお話していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

Vol.1でお話ししたように信濃電気と言う会社で、音響用電源装置 HSRシリーズの営業担当を生業としていました。このHSRシリーズは、商用電源の電源波形を整流するタイプのものでした。

具体的には、商用電源の交流を一度、直流にしてノイズ分を取り除いてから再度、綺麗な交流に戻して出力すると言うAC⇒DC⇒ACのコンバータです。

上HSR-510(当時¥220,000.)  下 HSR-1000R(当時¥500,000.)

上HSR-510(当時¥220,000.)  下 HSR-1000R(当時¥500,000.)

1990年代の頃の話ですが、プロオーディオ業界では、評価していただきまして、かなりの需要があり、レコーディングスタジオや放送局に数多く導入されました。

また、ホームオーディオの分野では、特にハイエンドのユーザーに認めていただき、販売数を伸ばしていました。

しかしながら、ホームオーディオの分野では、19997年頃からオーディオ用の電源タップが市場に出回り始めて、ホスピタルグレードのレセクタブルを使用した価格の高いタイプが売れるようになりました。

高いと言っても、¥50,000.以内でしたので、従来の家電用電源タップに比べると性能は、向上していましたから、ホスピタルグレードと言う言葉に釣られるかのように発売した各社は、販売量を増やしていました。

必然的にsinano HSRシリーズは、価格的に高価になりますので、販売店からは、「信濃電気もタップを出せば、売れるのにね。」とあちこちで言われていました。

営業担当としては、売れるものであれば、そうしたいのは、山々でしたが、いかんせん、信濃電気と言う会社は、大型電源設備の製造メーカーでしたから、HSRシリーズでも、民生用の超小型電源と言うことで、高コストに悩んでいました。

HSRシリーズは、最大で2kVA、設備用は、20kVA~100kVA以上となります。金額的にも数百万円以上の物件です。単純な電源タップを開発しても単に価格の高いだけの全く意味の無い製品になってしまうという懸念を持っていました。

そんな折に信濃電気と某国内最大手のデータ通信会社との製品開発のプロジェクトが進行していました。その相手先の技術担当者が、音楽好きで、オーディオ好きの方で、その方の開発した技術をオーディオ用電源に使えないかと言う提案を頂きました。

その技術とは、データ通信システムの誤動作のほとんどは、電源ラインから混入するノイズによる悪影響なので、そのノイズを取り除くと言うノイズフィルターでした。ただし、ノイズフィルターにも色々なタイプがあり、このノイズフィルターは、コモンモードノイズと言うデータ通信システムの機材から廻り込んでくるアースに起因するノイズを対象にフィルタリングするものでした。

皆さんのお手持ちのデジタル機器の回路図を見ていただければ、各電子回路毎にかなりの数のアースのマークがあることに気づかれると思います。

これは、電子回路には、どうしてもノイズが、発生しやすいので、アースを設けてシャーシに逃がしてやるという回路上の構成になっているためです。

しかし、理論上では、各回路のノイズをシャーシに逃がして、その筐体から電源ラインのアースに戻すという構成になりますが、実際には、シャーシに至る過程で、微小な電位差が、起きて、それによって電圧が発生します。この電圧が、ノイズとなり、アースラインに混入してコモンモードノイズとなって、各機器に対して悪影響を与えて、誤動作の主たる原因になっているのでした。

これをオーディオ機器に置き換えてみると、同じことが考えられます。

オーディオ、スタジオ機器もデジタル機器が、主流です。また、アナログ機器でもやはり、各回路では、シャーシにアースを落としています。つまり、オーディオ、スタジオ機器の大部分は、コモンモードノイズの影響を受けやすくなっている訳です。

では、コモンモードノイズとは、どう言ったノイズなのでしょうか?

今までは、ノイズとは、聴こえる音をノイズとして捉えられていました。

コモンモードノイズの成分は、高周波が、ほとんどで、全く聴こえないノイズなのです。つまり、聴こえない音、ノイズをフィルタリングすることにより、可聴周波数帯域のノイズを減らそうという製品を開発することになりました。

その製品が、「GPC-1500」(当時¥100,000.)です。

ちょっと、文章が長くなってきましたので、箸休めにその試作機を御紹介しましょう。  

GPC-1500(当時¥100,000.)

GPC-1500(当時¥100,000.)

内緒ですが、色々改造しようとしていじってあります。

電源ケーブル直結やブレーカーのパスを試みて失敗しています。

それはさておき、特徴的なのは、二つのチョークコイルです。直列に並んでいますが、大きさが違うことが判ると思います。一次側の商用電源からのノイズ対策の為のチョークコイルですが、これも大きさや配列を換えて試行錯誤の上、音質重視で、製品の仕様が決定されました。

その際には、初台にある某スタジオで、レコーディングエンジニアの方とスタジオ会社の方、この技術の開発者、メーカー技術者で、数回に渡って試聴を繰り返して決定しました。

その後この技術の開発者のオフィスラボにおいて、ノイズに対しての測定を実施しています。電子機器の筐体のアースラインに疑似ノイズを流して、効果を測定しています。

電子機器の筐体のアースラインに疑似ノイズを流して、効果を測定

様々なノイズを発生できる測定器が、沢山ありました。(羨ましい)

「GPC-1500」から給電するとノイズ成分は、綺麗に取り除かれています。

(本邦初公開です)

「GPC-1500」から給電するとノイズ成分は、綺麗に取り除かれています。

従来の聴こえるノイズをフィルタリングするのではなく、聴こえないノイズをフィルタリングすることによって、可聴周波数帯域のノイズを低減させて、音楽や映像に影響を与えないという画期的な製品が誕生したのでした。

「GPC-1500」は、発売当初から売れ行き好調でしたが、その後、皆さんもご存じの「電気用品安全法」いわゆる PSEの問題が勃発した訳です。

GPC-1500A

GPC-1500A

GPC-1500A

実は、HSRシリーズは、電気用品安全法の前身の電気用品取扱法の取得を目指したことがあり、検査機関のJETに足を運んだことがありました。

昔の

電取法の三角T

電取法の三角T

です。

その時は、HSRシリーズは、「電圧調整器の分類」になるので、500VA以上は、対象外と言うアドバイスをもらい、また、電気用品取扱法では、厳格な罰則規定もありませんでしたので、取得には至りませんでした。

しかし、新設された電気用品安全法では、罰則規定が設けられ、製造者だけではなく、販売者も罰せられるということで、慎重に対応することが、求められました。

当時は、ビンテージ楽器や機材などの販売でも罰せられるということで、大騒ぎになりましたが、業界の一丸となった活動が、功を成して、いわゆるビンテージ物に関しては、使用、販売が大幅に緩和されたことは、画期的な出来事だと思います。

皆さんの努力の賜物です。

そうは言っても製造者側は、キチンと対応しなければなりませんので、検査機関のJETを通じて、判定会議に諮られて、HSRシリーズは、以前と同様の「電圧調整器」しかし、GPC-1500は、「その他の差し込み接続器」(電源タップの仲間)という分類になり、特定電気用品としてJETで、認証を受けなければならなくなりました。

PSEマーク

PSEマーク

このマークは、検査機関のJETに製品を提出して認証を貰います。  

PSEマーク

こちらは、特定電気用品以外の電気用品と言うマークで、事業者登録のみの書類で、O.K.となります。

電源に関わるほとんどの製品は、になります。

この認定取得も費用がかかる為、製品化をあきらめたり、輸入できなくなった製品が、多々ありました。

そのようなことがあり、信濃電気では、「GPC-1500」を電気用品安全法に則った製品にするためにモデルチェンジすることになりました。

それが、「GPC-1500A」です。

標準価格も¥100,000.から¥120,000.にアップした理由はそのコスト増からです。しかし、その際に「GPC-1500」では、不評だった箇所の改善を実施していました。

入力ケーブルの直出しタイプから、IECのInlet仕様にして電源ケーブル交換が、可能になり、接続される電源ケーブルのホスピタルグレードのプラグの大きさに合わせて、出力端子同士の間隔を拡げて、使い勝手の向上を図っていました。

そのため、¥20,000.標準価格UPでしたが、PSE取得後も販売は、好調に推移して行きました。

しかし、その後更なる試練が、待ち受けていました。

信濃電気の民事再生問題です。

と言った所で、時間?となりましたので、次回は、民事再生から「GPC-T」の開発に至る物語と言うことで、来月の連休中に書き上げたいと思います。

最後にハイエンドショウTOKYO 2011 SPRING というオーディオの展示会が、5月13日~15日まで、有楽町の東京交通会館において開催されます。

来場者アンケートをご提出いただくと一枚ごとに100円が、出展社から義援金として東日本大震災の被災地に寄付されるという試みを実施しています。セカンドスタッフとボルトアンペアも出展しますので、お時間のある方は、是非とも足を運んでみて下さい。

2011年4月22日

電源物語

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