電源物語

Vol.7 : アースについて

今回は、GPCシリーズの開発秘話の予定でしたが、諸般の事情で、変更します。 と言うことで、今回は、アースの話です。

難題ですが、出来るだけ判り易く書いていくつもりですが、私の筆力、文章力の乏しい点は、ご容赦願います。

前にも書いたと思いますが、一般的には、アースとは、保安用の接地と考えられています。いわゆる、感電防止ですね。

ノイズ対策としてのアースの考え方は、回路の動作を安定させるための設計技術であって、音響用のノイズ対策としては、極めて特殊であると思って下さい。

あるとすれば、一昔前のアナログレコードプレーヤーのシグナルケーブルについていたアース線で、アンプにあるアース端子に接続することによって、プレーヤーのモーターのノイズをアンプの筐体に逃がして同電位にして、いわゆるハムノイズを抑えることくらいでしょうか。

これは、一部の電気に詳しい、興味のある方々の中には、そのアンプのアース端子を使って、各オーディオ機器の間をアース線で繋いで、各筐体を同電位にすることで、SN比の向上を図っているという裏技をありました。

これは、プロオーディオの各機材をEIAラックに搭載することで、ラックを通して同電位にすることと同じ効果があります。(更に各ラックを専用アースに落とすテクニックも)

さて、アース、グランド、接地など呼び方は色々ありますが、アースは、地球(earth)のことですね。地球、大地との電気的な接続のことを「earthing(アーシング)」と言います。そこから地面に接している「接地」と言われています。これからは出来るだけ「接地」として使っていきますので、ご了解ください。

一般的に接地する時に最初に頭に浮かぶのは、家庭電化製品、エアコンや電子レンジについている、いわゆる接地(アース)棒と言われる緑色の線のついた30cm程度の棒ですね。これは、完全に感電防止のための接地目的です。また、洗濯機用の壁コンセントについている接地(アース)端子も感電防止用です。

これらの接地をオーディオ用に使うと家電製品から発生するノイズ成分が、接地端子を通じてオーディオ機器との間にループが出来て、SN比が悪化するか、スピーカーから盛大にノイズが発生してしまいます。

これらの電化製品は、使われていないからとノイズは出ていないと思いがちですが、待機電力が、一時期、話題になったように常に電気は、流れていますから、コンセントから電源ケーブルが抜かれていない限りノイズのループは出来ていると考えて下さい。

接地棒、接地端子付コンセント

では、ノイズに強い音響用接地を確保するにはどうすれば良いのでしょうか? その前に、接地には、種類と言うかグレードがあります。

以前は、第一種、第二種、第三種、特別第三種接地工事と言う呼称でしたが、今現在は、「A種接地工事、B種接地工事、C種接地工事、D種接地工事」という呼称になっています。これらの目的は、対地電圧が上昇することによって生じる感電や事故から人間を守ることが大事になりますので、接地抵抗の値が重要になります。

接地抵抗の値

B種接地工事は、低圧用と高圧用を接続した際の為の特殊な接地工事なので、条件によって、数値が異なりますので、図表化が難しいので割愛しました。

前回の電源物語に登場した柱上トランスは、この表のA種接地工事が、義務付けられていますので、接地抵抗10Ω以下の優れた接地です。

一般住宅の場合は、余程のことが無い限りは、この柱上トランスの接地を有効活用した方が、メリットが多いので、第3回に書いたように壁コンセントの極性を調べて、コールド側のアースを積極的に活用することが、音質面では、大事になります。

では、マンションなどの集合住宅や雑居ビルのような大型の躯体の共同ビルは、どうでしょうか。ビル工事などは、電気室やキュービクルの接地端子ボックスから建物の躯体コンクリートの中や鉄骨に接地線が通ります。いわゆる鉄骨アースです。この設置は、接地線として、人が触れる恐れが無いので、安全で、接地抵抗も極めて低い値になりますから、保安上の接地としては、完璧に近いものになります。

しかし、マンションやビルの場合、本人以外の他の居住者や入居者が、言い方は悪いのですが、どこの誰かも知れませんし、どんな電化製品を使用しているかも判りません。また、生活、活動の時間帯もそれぞれに異なるので、24時間監視する訳にもいきません。ほとんど入居者は、使用している電化製品のノイズ等には知識や関心はないでしょうから、ノイズ対策は全くしていないことでしょう。

その場合、接地端子として、単独に設けられている端子は、絶対に使わない方が賢明です。ノイズのループが出来ていますので、音や映像にノイズが回り込む可能性が極めて高くなります。

壁コンセントのコールド側に極性を合わせることで、ノイズの影響を抑えることが、大事になります。更に言えば、弊社の「GPC-T」や他社から発売されている電源機器を使うことも方法です。

電気工事実技マニュアル

この本は、電気工事士の受験の際、当時の上司から勉強用の資料として頂いたものですが、接地工事については、延べ600ページ強の内、4ページしかありません。一般の電気工事業者でも保安上の接地工事としてしか認識は無いと思いますので、音響用のノイズ対策として接地工事を望むには、かなりの知識が必要となるでしょう。

それでは、いままでに接地工事においてメーカー時代に経験、体験した事例を紹介したいと思います。世田谷の環八沿いの新設スタジオの接地工事では、新しいデジタルのスタジオを造るので、電源からしっかりしたものにしたいと言う依頼を受けて、信濃電気の電源機器を導入していただきました。

その際、スタジオ機材にヨーロッパ製の調整卓を240Vで、給電することになり、更に音響専用のアース(接地)にしたいと言うエンジニアの強い要望がありました。

そこで、当時の代理店の方と電気工事業者との打合せの結果、単独で接地工事を行うことになりました。(信濃電気の電源は、入力単相200V、出力240Vの特注仕様)

目標は、A種接地の10Ω以下と高く設定しました。

しかし、敷地上の制約があり、穴を掘るスペースは、2m×3m程度で、空調やブロック塀の支柱等で、小型重機でも使用不能と言うことで、手掘りでの作業となってしまいました。

8月の夏休みの頃でしたが、真夏の太陽は、実に凄まじいものがありました。また、穴を掘ると必然的に土が出ます。接地工事ですから、埋め戻さなくてはなりませんので、掘った土の保管スペースも確保しつつの手掘り作業です。丸々3日間、掘り続けて、3m程の深さになった所で、石の層に当り、取り除くと地下水?が出てきて、泥状になったため、これ以上、掘り続けることが困難になったので、あきらめて、銅板(900×900×1.6mm)を埋め、電気工事屋さんの用意した接地抵抗を低減させる化学物質と炭を敷き詰めて、埋め戻しました。接地抵抗10Ω以下が、目標でしたが、確か20Ω強程度は、出ていたと記憶しています。根性で5m位掘れば、10Ω、数値出たかもしれませんが、体力的に無理でした。

接地極の埋設

15年前位でしたので、デジカメや携帯電話のカメラもありませんでしたので、文章だけの紹介で、判りづらい点は、ご容赦願います。

スタジオ完成後に聴かせていただいた音は、凄く静かで、自然で、伸びやかな音でした。エンジニアの方も、音が判り易く、仕事がやり易いと言われていました。

もう1件、接地関連で記憶に残っているスタジオは、横浜にあるマスタリングスタジオです。

大きな敷地の中にあり、マスタリングルームを5室、有していました。

その内の一部屋で、ノイズが乗ると言うことで、調査・測定に伺いました。

全てのスタジオに信濃電気の電源機器が導入されていました(入力:単相200V)ので、メーカーから技術担当者にも同行してもらい、万全の体制の臨みましたが、原因は一向に判明しませんでした。

結局、当日は、各部屋の測定を行いましたが、具体的な原因は、不明のままで、データを検証の上、再度、調査を行うと言うことで、帰路につきました。

技術部を含めて、当時のGPC-1500の基本技術開発者の意見も参考に検討した結果、各部屋のアースポイント(接地極)の取り方の確認という方向性を見出しました。そのスタジオは、電気メーカーの工場内にあり、本社の事務棟の中にありますが、何分、歴史がある為、建屋自体は、古いものでしたので、もしやと疑ってみたのでした。

後日、再調査の為、訪問する前にスタジオの電気系統図(スケルトン図)を確認したい旨、依頼しておきました。

果たして、その結果、ノイズの発生していたスタジオのみ、別のアースポイント(接地極)から接地線が、引かれていて、そのため、スタジオ内の信濃電気の電源機器以外から給電されていた機材との間で、電位差が生じて、電圧の直流成分が電源ラインからシグナルラインに影響を与えて、ノイズとして、モニタースピーカーから聴こえたと判明しました。

こうした旧い建屋で、建屋が複合的に建っている場合や増築や改築、改修が、行われた場合は、電源ラインの取り方が、複雑になり、そのため、不要な電位差が発生する可能性が高くなります。池袋の某ホールや有楽町の大規模ホールなどでも、PAエンジニアの方から、改修の都度、何かしらノイズが増えてくるような気がすると内密に?打ち明けられたことがあります。

最新の動力機器は、ノイズ対策もされていることが、当り前になってきましたが、実際は、OA機器等に対しての対策で、音響機器への配慮は全く無いと言っても過言ではありません。

最近、ノイズが気になり出してきたとか感じるようになってきましたら、何らかの対策が必要になると思いますので、このコラムを読み返して、電気、電源に関心を持って下さい。

電気は、見えないものですが、音響や映像の世界には、ノイズなどよって、聴こえたり、見えたりしますので、実は、判り易いものでもあります。

さて、先程の接地工事の際に接地抵抗の測定のことをお話しましたが、接地抵抗の測定では、接地極に対して、10m間隔ほぼ一直線に接地抵抗計の電極を2本地面に差し込まなければなりませんので、かなりのスペースが必要となります。接地工事の場合、ある程度、数値の予測を元に工事に取り掛からなくてはなりません。数値が高いからと言ってやり直すことは、費用と日数が馬鹿になりませんので、経験による予測が重要になってきます。電気工事関係者との綿密な打ち合わせが、必要になると思います。また、水道管は、今は塩ビのパイプが殆どですから、簡易接地抵抗値の測定には、役に立たないことを最後にお伝えして終わりたいと思います。

アース関連書籍

大きな書店の電気関連コーナーには、色々ありますので、参考書として活用してみて下さい。

次回は、「GPC」開発秘話いけるか?

乞う、御期待を。

2011年3月7日

電源物語

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