電源物語

Vol.2 : 電源波形データの解説

第2回目です。

前回、告知しました電源波形データについて解説していきたいと思いますので、お付き合いください。

スタジオ内の機器用電源の波形データ

2-1図 スタジオ内の機器用電源の波形データ

信濃電気に在籍中の1994年6月のことでした。 渋谷の某放送局から、安定化電源機材のデモの要請が、ありました。 スタジオ用機材の「スチューダー A-800」という8chのテープレーコーダーで頻繁に回転ムラが、発生するということでした。 今は、レコーディング自体、デジタル録音が当たり前なので、テープなどというアナログ製品になじみは無くなっていますが、当時は、まだ、アナログ録音が、主流で、デジタル録音もDAT,、A-DATというテープメディアを使っていました。つまり、回転するメカを持つ機材が、使われていましたので、モーターが、搭載されていた訳です。

このA-800というテープレコーダーのモーターは、シンクロナスモーターと言う種類で、回転を交流電源の周波数で制御するタイプでした。

放送局のエンジニアもメーカーの技術者もA-800実機の検査を行い、機材本体には、全く問題が無いということで、途方に暮れていたそうですが、放送局の担当者にオーディオ愛好者の方が、いらっしゃって、信濃電気と言う会社から、電源波形を整流する電源機器が、発売されているから、一度、試してみようということになったそうです。

そして、現地スタジオで、測定した電源波形が、上に掲載したデータです。

実は、この放送局は、スタジオ内に2系統の電源が用意されています。 ひとつは、機器用、つまり放送、録音に関わる機材専用ですね。 そして、もうひとつは、いわゆる、雑電、クリーナーやワープロなどの一般用電源です。

考え方としては、機器用は重要なので、他の電気製品とは、切り離した方が良いだろうということです。 当時としては、画期的で、先進的な電気系統だと思いますが、これが、裏目に出ていたとは、思わなかったことでしょう。 実際、私たちも、電源波形を測定するまでは、そこまで、深く考えてはいませんでした。

2-1図 は、スタジオ内の機器用電源の波形データです。

外側の台形に近い波形は、電圧波形。

内側の半円状の波形は、電流波形です。

テスターでの測定では、電圧 101V、電流 3.98Aでした。

そして、周波数は、もちろん50Hzです。

A-800は、50Hzの周波数で、同期と取って、回転しているわけです。

しかしながら、回転ムラが発生するということは、この電源に問題があるということです。

では、何が、問題かというと交流の電源波形が、正弦波(Sin波)から程遠い波形に変形していいる。また、電流が、電圧波形のピークに対して、随分遅れて流れているという点です。このことが、原因で、回転ムラが発生しているのではないかということが考えられました。

そこで、スタジオ内にあるもう一系統の電源、雑電から給電してみることにしました。

測定データは、電圧 94V、電流 3.18A、周波数は、50Hzです。

テスター上では、94Vと低いのですが、電圧波形は、正弦波に近い形になっていますし、電流も電圧波形のピークに流れています。

電圧が、低いことを除けば、全く、問題は無いようでしたが、頻度は、減ったとはいえ、やはり、回転ムラは発生しました。

 

2-2図 スタジオ内にあるもう一系統の電源、雑電から給電の測定データ

2-2図 スタジオ内にあるもう一系統の電源、雑電から給電の測定データ

次に、メーカーが、用意したノイズカットトランスから給電してみることにしました。

2-3図 メーカーが用意したノイズカットトランスから給電した測定データ

2-3図 メーカーが用意したノイズカットトランスから給電した測定データ

結論から言いますと回転ムラは、発生しませんでした。

しかしながら、電源波形は、面白いと言うか何と言うか、実に興味深いものでした。 テスターの測定データは、電圧 101V、電流 3,88A、周波数 50Hzでした。

間に雑電のデータが、挟まってしまいましたが、2-1図と2-3図を比較すると全体的な波形の形は、似ているものの電流の波形が、大きく異なります。これは、ノイズカットトランスは、言ってみれば、抵抗分なので、そのため、電流の流れが遅れるのでは無いだろうかということが、私達の考えでした。

つまり、電流の遅れは、位相のずれの要因になりえるということで、録音、さらに多重録音に関しては、回転ムラが解消しても対策電源としては、いかがなものかという結論になりました。

そこで、当時、発売したばかりの信濃電気「HSR-2000P」というプロ用電源の登場です。

2-4図 信濃電気「HSR-2000P」を使用した測定データ

2-4図 信濃電気「HSR-2000P」を使用した測定データ

見事です。

綺麗な教科書通りの正弦波(Sin波)です。

電流も電圧波形のピークで、キチンと流れています。

機器側が、要求したタイミングで要求した分の電流が、流れているという理想的な電源と言うことです。 テスターの測定データは、電圧 105V、電流 3.24A、周波数は、60Hzでした。

この放送局では、先程、説明したように機器用電源の一般機器用電源を分けていましたが、機器用電源に機材が、集中したため、波形が、正弦波とは、程遠い波形に崩れてしまっていました。

そのために、テープレコーダで、回転ムラと言うトラブルが、発生しましたが、電源に問題があることに気付いたのは、偶然?オーディオ好きの担当者が、居たためで、実際は、実機を修理に出しても、異常無しで、戻ってくるという繰り返しだったようです。

その後、信濃電気の別に部署が、局の設備部門に出入りしていましたので、私の上司が同行して、このデモ結果を説明したところ、設備側としては、ある程度、予想されていた結果で、ただ、対策のしようが無いのが、実情で、放送局としては、機材を使うなとも言えないし、一般用雑電を使えとも言えないので、現場から相談が有れば、対策電源としてこんな機材があるとアドバイスするということになったそうでした。

その後、この放送局では、DAWが、次々導入されていく中で、信濃電気の電源が、標準電源として採用されるようになりました。

この時のデモが、HSRシリーズを業界の標準電源の地位を確立していくきっかけとなったのは、間違いありません。

私達にとっても非常に貴重な体験であり、勉強になったデモでした。

さて、長くなりましたので、今回は、ここまでとして、次回は、第1回目でも少し触れましたが、電源の極性についてお話したいと思います。

先日のInterBEEでも何度か相談を受けましたが、機材から電源ケーブルが直出しになっていて、平行のプラグに極性表示が無い時は、どうやって測定するのか?というお話です。

11月30日

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