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ロンドンのアビィロードスタジオとアメリカのスペシャリスト集団CHANDLER LIMITEDがチームを組んで開発する、世界で最も成功した機材の再生。

1950年代から1960年代にかけてEMIは30以上のレコーディングスタジオを世界に所有していました。まだレコーディングの世界がフリーランス中心ではなく、巨大なレコードカンパニーがスタジオを所有していた時代です。EMI社のオフィスにはスタジオが備え付けられ、それらのスタジオにはEMIがオリジナルで開発した機材がセットアップされていました。もちろんEMI社のプレミアスタジオであったアビィロードスタジオがこれらの機材開発の中心であったことは言うまでもありません。

1967年、1960年代から主流であった真空管ミキサーに代わりになる新しいミキシングコンソールのデザインの詳細ができあがりました。EMI TG12345ミキシングコンソールは世界で始めてのトランジスタベースのマルチチャンネルのミキシングコンソールとなりました。このミキサーは1968年12月に英国アビィロードスタジオに設置され歴史的なレコーディングにその音を刻むこととなります。BEATLESのABBEYROAD、PINK FLOYDのDARK SIDE OF THE MOONといった珠玉の名作が生み出されました。

1970年代EMIはアビィロードのディスクカッティングシステムと世界中のEMIスタジオのためにTG12410トランスファーコンソールを開発しました。それらの多くはレコード会社のオフィスに設置されマスターディスクのカッティングがそこで行われたのです。TG12410はTG12345をベースにしていましたがTG12413リミッターが組み込まれていたのが大きな特徴でした。さらにイコライザー、フレキシブルなモニタリング、テープマシンやディスクカッティングのための旋盤のコントロール機能などが装備されていました。このコンソールのデザインは非常に素晴らしく、今日でもアビィロードスタジオのマスタリングルームで使用されています。

これらの機材の数々は今まで一度たりともコマーシャルなマーケティングは行われていませんでした。大量に生産され流通されたこともありません。純粋なオリジナルで今日も残っているものは手で数えられる位でその価値たるや値段のつけようが無いほどです。

↑世界で最も有名なフロントドアの一つ。
ロンドンにあるアビィロードスタジオ。
『EMIオリジナルデザインはアビィロードのエンジニアとEMI Central Laboratoriesのコラボレーションにより英国Hayesで開発されていました。TGシリーズとなる以前のEMIコンソールはREDDデスクとも呼ばれ、1968年以前のビートルズのレコーディングなどにはこのREDDデスクが使われました。REDDとはRecording Engineering development Departmentの略でアビィロードスタジオのテクニカルエンジニアであったLen Page氏が中心になっていました。一方TG12345はMike TerryとMike Batchelorを中心にサーキットデザインされました。』とアビィロードスタジオのマネージングディレクターであるDave Holley氏は語ります。

『オリジナルデザインは大変に貴重であるが未完成でもある。』CHANDLER LIMITED社のデザイナーWade Geoke(ウェイド・ゴーク)は言います。そのいくつかはRS114コンプレッサーのようだし、ALTEC436/RS124のようでもある。オリジナルのパッシブEQであるCurve Bender(Universal Tone Controlとも呼ばれた)とZener Limiterはロンドンのアビィロードスタジオ以外では使用されなかった極めてレアで貴重、かつ素晴らしい機材だ。もしかすると1台または2台くらいしか作られなかったのかも知れない。私はオリジナルのCurve Benderがアメリカで$35,000で売られていると聞いたけどね。私はTG12412マスタリングEQ(現在プラグインバージョンとして発売中)を$10,000で入手したことがある。』

2005年のNEW YORKで行われたAESコンベンションにおいてABBEYROADとCHANDLER LIMITEDは今後共同でこれらのEMIオリジナル機器を再生産することを発表した。『私のリビルドしたTG1 リミッターはAbbey Roadでよくエッセンスをキャプチャーしていると認識された。それからプロジェクトを共同ではじめるよう話し合いが進められていったのです。』ウェイド・ゴーク氏は続ける『私はEMIやアビィロードにアーカイブされたインフォメーションにアクセスし、次々にプロジェクトをスタートさせています。現在でも20以上のプロジェクトがありその全てを行いたいと考えています。実際ここに達するまでに一度は契約について難航しましたが、DAVEがアイオワ州のCHANDLERのファクトリーまで遥々やってきてくれてついに契約が成立しました。』

アビィロードのマネージングディレクターであるデイブ・ホリー氏
アビィロードのベテランエンジニア 
ピータ・コビン氏

『1990年代になって私たちは今までに無くこれらのEMIオリジナル機材を多く使用するようになりました。』Holly氏は説明します、『先輩のレコーディングエンジニアであるPeter Cobbin氏は特にこれらのEMI機材に精通しており常にこれらを使用していました。その頃は今のようにレトロなアナログ機材について興味がもたれるようなことはありませんでしたからね。Peterと同僚たちはクラシックなEMIイクイップメンツのサウンドを新バージョンのハードウェアーとソフトウェアーによってよみがえらせる事ができないかと考えていました。2001年に私がアビィロードスタジオにやってきたときこのアイデアは非常に可能性があると感じました。実際には私たちはもう少しであるマニュファクチャーとこのプロジェクトについて契約をする手前でした、しかしウェイド・ゴークが作成したTG-1リミッターがここに現れたときには、もう私たちのパートナーはCHANDLER LIMITED以外に考えられませんでした。私たちはCHANDLER LIMITEDをパートナーに加えました!』

『全てのEMI機材は極めて少量しか作成されておらず、また大変価値のある機材です。これらの伝説の銘機のニューバーションを送り出すには絶好の時期だと思いました。』

ニューバージョンのユニットはCHANDLERのウェイド・ゴーク氏とアビィロードのPeter Cobbin氏をはじめとするエンジニアが中心となり進められました。作業はオリジナルに細部まで忠実に再現するよう進められていったのです。最初に完成したのがTG12413 Limiter、今ではTG-1として発売されているプロダクトです。

『私たちはいかに正確に精巧にオリジナルのサーキットボードを再現するかに特に時間をかけました。サーキットボードの配置などにおいても完璧なレプリカをめざし実現しています。全てのパーツは(1968年と)全く同じ位置に、極めて同一のパーツで配置されているのです!例えばラインアンプのトランジスタは残念ながらすでに生産されていないパーツでしたが私たちは実に数多くのカンパニーをあたり、実に正確に同じ機能、そして同じ音質のパーツを厳選しています。新しく発売されるCurve Benderイコライザーではラインアンプにゲルマニウムトランジスタが使用されていますが、これも実に沢山のレアパーツのスペシャリティーがこのパーツを生産してくれたおかげで完璧な品質をコントロールすることができました。このような話は私たちのどんな新製品についても当てはまります。膨大な開発費用と膨大な時間、そして間違いなく細かい部分についても厳しく開発されているのです。』

その忠実なオリジナルのリプロダクション性のためにWade Geoke氏はEMI/ABBEYROADの資料アーカイブにあるMike Batchelorらによるオリジナルデザイン、開発途中のデザインノートなどを注意深く調べました。テスト機や回路のアートワークについてまで詳細に調べつくす大変な作業であったとウェイド・ゴーク氏は回想しています。『またアビィロードで1960年代から活躍しているLester Smith氏が多くを助けてもくれました。オリジナルの回路設計について膨大な知識で助言してくれたのです。』

オリジナルのドキュメントにある重要な事項と対極にあるのがコンポーネンツの経年変化によるサウンドの変化です。ウェイド・ゴークの意見はこうです『確かなことは正直判らない部分もあるが、確かにそれによって多少の音質の違いがあるかもしれない。でも自分はその事についてはポジティブに考えているんだ、新品のパーツとトランスフォーマーによって(アビィロードにある何十年も前のオリジナル機器と比較した)サウンドは多少クリーンに聞こえるかもしれない。またより低ノイズなパワーサプライの設計も影響しているかもしれないね。でも間違いなくこのユニットは私たちの時代において完璧に(EMIオリジナルの機材を)再現しているんだ!』

これらの新品のビンテージEMI機器には何ら新しいテクノロジーは投入されていません。プロジェクトに関わる誰もがオリジナルにない機能を求めようとはしませんでした。
ウェイド・ゴーク氏によると『新しいテクノロジーに関してはフロントプレートのプリントデザインと基板のデザインにコンピューターを使ったくらいのものだ。しかし新しく発売するZener LimiterとCurve Benderには沢山のオリジナルにはない改造を施したんだ。よりフレキシブルな設計になっている。サイドチェインフィルター機能などはEMIユニットでは見られないものだ』

ABBEYROAD/CHANDLER LIMITED プラグイン 
これらハードウェアーのアビィロード/チャンドラーの共同開発はプラグインユニットの開発にまで発展した。リリースの許可がおりるまでウェイド・ゴーク氏をはじめとする開発チームは『オリジナルのビンテージサウンドにいかに近ずけるかを追求した』といいます。『これは大変時間のかかる作業でした。アビィロードスタジオのエンジニア達は何十年にも渡ってオリジナルのEMI機器を使ってきたのですから、そのサウンドに対して完璧な判断をすることが出来ました。作業は何度も何度も繰り返され正しいと思えわれるまで続けられました。私自身(このプラグインは)大変オリジナルに忠実に仕上げられたと思います。特に新しいEQプラグインは私の耳には完璧な仕上がりに聞こえます。』とウェイド・ゴーク氏は述べています。

『どれだけこのプラグイン開発に私たちのチームが時間を費やしたか私は知っています』Holly氏はつけ加えます。『沢山のトレードショーでお会いした方々のAbbey Roadプラグインに対する意見から世界中で(このアビィロードプラグインが)いかに愛されていることを理解しています』

この10年間でレコーディング業界はデジタルワークステーションに完全に支配されたといえます。音楽レコーディング機材のデザインはこれによって変化したでしょうか?ウェイド・ゴーク氏は答えます。
『テープによるアナログレコーディングの終焉は、前以上にサウンドへの色付けを意識する機材のデザインを推し進めた。コンピューターレコーディングはいまやパワフルで誰にも入手が可能だ。グッドなDAWシステムと少しばかりハイエンドなシグナルチェインの用意があれば誰だってRealなサウンドをベッドルームやガレージでクリエイトすることができるんだ!』

Holly氏によるとTG機材はまだまだ現役だ『私たちは今でもオリジナルのTGキットを様々な目的で使用しています。TGコンソールを通してレコーディングすることもあります、またアウトボードを持ち出してミックスに色付けすることもあります。私たちのマスタリングルームには各々にTGコンソールが常時スタンバイして使用されているのです!』

アビィロード/チャンドラーの共同開発によるパートナーシップは以下の素晴らしい機材を世界的にデリバリーし大成功を収めています。(カッコ内はベースとなったオリジナルEMI機器)

<ハードウェアー>
TG1 Compressor (EMI TG12413)
TG2 Pre Amp (EMI TG12428)
TG Channel mk2 Pre Amp + EQ(EMI TG12410)
TG12345 Curve Bender EQ(EMI RS168とTG12345、TG12413のコンビネーション)
TG12413 Zener Limiter(EMI RS168とTG12345、TG12414のコンビネーション)
TG Mixing System

<プラグイン>
TG12413(TG12413 と CHANDLER TG-1を再現)
TG Mastering Pack (EMI TG12412、TG12414)



ウェイド・ゴークによると『私たちは全てのレンジのプロダクトを発売する予定だ。来年にはより多くのプラグインとハードウェアーを発売する。』とのこと。
Holly氏も『私たちがこのスペースで行っていくプロジェクトはまだ表面を引っかいたくらいのもの(これからますます発展していきますよ)』と締めくくった。


プロオーディオ誌2007年1月号より

ウェイド・ゴーク(右)とEMI/アビィロードチーム↑
OASISのノエルギャラガー所有の貴重なTGコンソール