技術解説:ヘッドフォンのバランス駆動について

ヘッドフォンのバランス駆動解説

バランス駆動とは

私達の良く知っている従来のヘッドフォンはアンバランス駆動/シングルエンドです。このアンバランス駆動ではドライバーユニットの一方をGNDに接続し、もう一方の端子をアンプで駆動しています。

バランス駆動ではドライバーユニットの両端を2回路のアンプで互いに逆位相の信号で駆動します。これはスピーカーのBTL(Bridge Transformer Less)駆動そのものです。

一般的にバランス駆動とは出力段がバランス回路である物を指しますが、最近ではフルバランスと言う言葉も聞かれます。フルバランスとは入力から出力まで全てがバランス回路で構成されている状態を指します。アンバランスからバランスへの変換の際、反転出力を得るプロセスで起こるほんの僅かな不平衡までも取り去った回路構成で、DACからバッファ、ボリュームや配線、基板パターンにいたるまで徹底してバランスを維持した設計をしなければ意味がなく、コスト面から超高級機種の一部でのみ採用されています。DACが一体のモデルであれば理想的ですが、アナログで入力する場合はバランス接続が必須、しかもCDプレイヤーなど前段の機器もフルバランス構成の機器でなければ(どこかでバランス化回路が入るため)フルバランスであるメリットは半減してしまいますので注意が必要です。

スピーカーの場合バランス(BTL)駆動させるのは出力の増大が第一の目的であったでしょう。しかしヘッドフォンの場合は単にそれが目的ではなく、音質に関わる様々な利点を得る事を目的としています。

  • グラウンド(基準電位)の安定化
  •  セパレーション(クロストーク)の改善
  • スルーレートの向上

などの要素において圧倒的な向上や改善が見込まれます。

各々について詳しく検証していきたいと思います。

グラウンド(基準電位)の安定化

理想的なヘッドフォン駆動を行う上でGND(グラウンド)は電位の変動があってはなりません。このGND電位は振幅の基準になる電位ですのでこれが変動してしまう状態だと正しい再生ができていない事になります。通常のヘッドフォンは片側をGND、もう片方をアンプという状態で駆動しています。アンプに駆動信号が入力されると出力電流がヘッドフォンに流れアンプのGNDへ流れ込みます。ところが実際には配線や基盤のパターンは抵抗値を0Ωにはできませんので駆動電流が流れる事で電位を変動させてしまうのです。結果、歪みや音が濁るなどといった音質の劣化の要因となってしまいます。アンプからドライバーユニットまでのケーブルを見ると抵抗値は大きくなり、ユニット側から見るとGND電位の変動は更に大きく現れます。

バランス駆動では +AMP から出力されヘッドフォンを駆動した電流は -AMP が全て吸い込みます、GNDには駆動電流が流れないのです。そのため、GNDは駆動電流の影響を受けることなく、基準電位となるべく存在しているだけなのでGND電位は常に安定した状態にあります。基準となるGND電位が安定する事で正確に優れた再生を可能とし、リニアリティー、解像度、定位、音の濁りや曇りの無さ、パワー感などと言った多くの面で大きな改善を実現できるのです。

セパレーション(クロストーク)の改善

ヘッドフォンのケーブルは一般的に細い導体ですのでインピーダンスを持ちます。しかも多くのヘッドフォンの場合GNDは1本にまとめられた状態、つまり共通インピーダンスとなります。そこにL chだけ駆動電流が流れると、ドライバーユニットを通過した電流はケーブルを流れアンプのGNDへと流れます。このときケーブルは電気抵抗を持っていますのでドライバーユニット側のGND[B点]にはドライバーユニットのインピーダンスとケーブルの抵抗で分圧された電圧が発生し、GND電位が変動してしまいます。また、R chのアンプ出力は0Vなので電圧が発生した[B点]から電流が流れる、つまり音が漏れる(クロストーク)訳ですが、R chはGND側に信号電圧が発生していますので信号の方向性はCOLDからHOTとなるので出音は逆相になります。そのため、L側に定位している音は定位が中心に集まり、しかも音像が不自然に横方向に延びてしまう現象が起きてしまうのです。

センターに定位する音はどうでしょう?B点には同様に分圧され電圧が発生します。L/R加算され共に正相で発生していますのでドライバーにかかる電圧はHOTの電圧とB点の電圧との差ですので、その分だけ音量が下がってしまいます。

つまりアンバランス駆動ではレベルの乱れや定位の偏り、逆相成分の発生により、本来のステレオ感が損なわれてしまっているのです。

バランス駆動ではドライバーユニットの両端を正相/逆相のアンプで駆動します。これを実現させるためには従来は共通であるマイナス側を分離した専用ケーブルにする必要があります。もちろんケーブルはインピーダンスを持ちますので電圧降下は起こります。しかし伝送上の共通インピーダンスは存在しませんのでクロストーク性能の劣化の原因にはなりません。極僅かなレベルの減少の要素は考えられますが、駆動電流がL/R混ざり合うことなくそれぞれ完全に独立してドライバーユニットを駆動しています。

以下がクロストーク性能測定の結果です。ヘッドフォンケーブルのインピーダンスも含めた形で計測できるよう、ドライバーユニットの HOT/COLD 端子間で測定を行っています。

・REFERENCE / 0dBV OUTPUT @SONY MDR-CD900ST R ch
・アンバランス駆動 / -42dB @1KHz
・アンバランス駆動(セパレートケーブル改造) / -54dB @1KHz *
・バランス駆動 / -84dB @1KHz

*アンバランス接続(セパレートケーブル改造) は三極のフォンコネクタのSLEEVE端子からL/RのGNDを独立した状態でドライバーユニットまで配線して共通インピーダンスとなる範囲を可能な限り短くしCROSS TALKの改善を狙ったヘッドフォンを使用しました。 

結果より検証してみると、アンバランス駆動の場合-42dB @1KHzという値になっておりL chの音が 42dB小さいレベルでR chに漏れてしまっている事を表します。-42dB 、約1%ではありますがとても満足できるレベルではありません。CDのダイナミックレンジは96dBとされていますから、再現性が半分も損なわれてしまっている事になります! 

次にアンバランス駆動(セパレートケーブル接続)では12dBの改善が見られ音の印象も違ってきます。SENNHEISER HD650やAKG K701等は元々このような構造になっており、アンバランス駆動でも広がり感を改善する事に成功しています。

そしてバランス駆動では測定値 -84dB @1KHzでした。アンバランス駆動と比べると42dBも改善され、セパレート接続と比較してもさらに30dB改善された事が分かります。バランス駆動時はほとんどアンプのCROSS TALK性能と同等です。アンバランス駆動には多少のデコボコはありますが全帯域に渡って一様な(フラットな)特性になっている事から、抵抗成分の共通インピーダンス、つまりヘッドフォンケーブルの抵抗成分が影響していると判断できますが、バランス駆動には周波数が高くなるにつれて漏れが大きくなっているのが分かります。バランス駆動においては共通インピーダンスがありません、傾きが6dB/octに近いのでケーブルの線間容量による静電結合の影響と考えられます。それでも -60dB以下ですので優れた値と言えるでしょう。この数値の違いは例えるならばミキサーのPANが7時と8時9時位の差がある事でしょう。微妙な差と捉えられるかもしれませんがステレオソースにとっては定位や広がり感は大きく印象が異なり、音場のリアリティーに大きな違いが生まれます。それぞれの音がセンターに寄ってしまっていた為、定位のあいまいさや音の重なりでマスキングされていた音が、バランス駆動では定位がきっちり決まる事で音の一つ一つがフォーカスされ本来のクリアなサウンドと豊な音場空間を取り戻します。

スルーレートの向上

スルーレートとは方形波の様な立ち上がり(立と下り)が瞬時(0[秒])に行われる信号が入力された時、出力信号がどれだけ速く立ち上がるかを表した特性[V/S]で、増幅器の応答速度を示す値です。つまり入力波形に対する出力の正確な追従を意味しています。増幅器としての理想値は0秒でですが、実際には必ず遅れ(傾き)を生じてしまいます。

バランス駆動ではアンバランス駆動時と同じ音量を得るのに一つのアンプが担当する出力電圧は半分で済みます。波形もアンバランス駆動時の半分まで立ち上がるだけで良い事になるので目的の電位に達するまでの時間も短くなり、結果スルーレートの向上につながっています。デジタルIC高速化の考え方にも通じる所があり、低電圧化する事でローレベル/ハイレベルへの到達時間を短くし高速動作を実現しています。

 

スルーレートの向上により動的な部分での正確さが高まります。実際の音では解像度、音のダイナミックさに明確な違いが現れてきます。リバーブ成分の消え際まで明瞭な空間再現性により音に空間が生まれてきます。マイクの距離感や録音ブースの広さなどが想像できるほど立体的な情報量の多いサウンドが飛び出してきます。

スルーレートと聞くと[スルーレート=アンプの速度=高域の特性]という事で高域のみに影響するものと勘違いしてしまいがちですが、スルーレートは波形が立ち上がる(または立ち下がる)時の傾きですので、周波数に関係なく一定です。方形波のような立ち上がり(立ち下り)時間が極めて小さい波形であれば低い周波数でもスルーレートの良し悪しは影響してきます。例えばキックドラムやベースなどの低音楽器のアタック音には超低域~超高域まで広帯域に渡る周波数成分が含まれています。バランス駆動では低域のスピード感、重量感においても比類ない性能を発揮する事ができるのです。

製品種類別

ダウンロード

PDF(マニュアル等)

なし

zip(ファームウェア等)

なし
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